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税務・会計

【医療会計】窓口収入の仕訳と現金管理の鉄則|現金のズレ・クレカ支払・未収金消込を徹底解説

医療機関の経理担当者が日々の業務で最も頭を悩ませるのが、「窓口現金の管理」ではないでしょうか。

 

「レジ締めをすると、どうしても現金が合わない」

「クレジットカードやQR決済が増えて、仕訳が複雑になった」

「未収金(患者負担分)の残高が合っているか不安だ」

 

このような悩みは、多くの病院・クリニック共通のものです。

本コラムでは、日々の窓口収入に関する会計処理に特化し、現金の過不足処理からキャッシュレス決済の管理手法、そして不正防止のための内部統制まで、公認会計士・税理士が実務レベルで徹底解説します。

 

Ⅰ. なぜ「現金 / 売上」の仕訳ではダメなのか?

 

医療機関が発生主義を徹底するためには、日々の窓口で「(借)現金 /(貸)売上」と処理する方法は、原則として推奨されません。

医療会計では「発生主義」が原則であり、売上確定と入金処理のタイミングが一致しないことがあるためです。

  • 売上の発生: 診療行為が完了した時点
  • 現金の回収: 窓口で支払いを受けた時点(日々)

さらに、レセプトチェックの過程で診療報酬請求額が修正される場合もあるため、日々の入金処理は「医業未収金の回収」として記録し、売上は診療行為に基づき月末等に一括計上する方法が、誤りが少なく、月次残高の検証もしやすい運用となります。

 

Ⅱ. ケース別・窓口収入の仕訳完全マニュアル

 

それでは、具体的な仕訳パターンを解説します。

 

ケース①:窓口で現金を回収した時

基本となる毎日の処理です。

状況: 1日の窓口現金収納額が100,000円であった(レセコンの集計と現金の有高が一致)。

貸方を「窓口診療収益」ではなく「医業未収金」にします。これにより、帳簿上の未収金残高はいったんマイナス(または減少)になりますが、月末に売上を一括計上することで相殺され、正しい残高になります。

 

ケース②:クレジットカード・電子マネーで支払われた時

近年急増しているキャッシュレス決済です。現金は増えませんが、「窓口での回収は完了した」という処理が必要です。

状況: 窓口で患者さんが10,000円をクレジットカードで支払った。

ここが間違いやすいポイントです。

  1. 貸方は「医業未収金(窓口)」を減らします(患者さんの支払義務は消滅したため)。
  2. 借方は「現金」ではなく、「未収入金(カード会社に対する債権)」を新たに計上します。

こうすることで、「患者さんへの債権」が「カード会社への債権」に振り替わったことになります。補助科目にカード会社名や「クレジット」を設定し、管理します。

 

ケース③:窓口現金に「過不足(ズレ)」が出た時

どれだけ注意していても、釣り銭ミスなどでレジの現金とシステムの集計額が合わないことがあります。

状況: システム上の収納額は100,000円だが、手元の現金は99,000円しかなく、1,000円足りない。

重要なのは、貸方の「医業未収金」は必ずシステム上の正解の金額(100,000円)で計上することです。

ここを現金に合わせて99,000円にしてしまうと、患者さんの未収金データ(誰が払ったか)まで狂ってしまいます。

未収金は正しく消し込み、手元の現金との差額を「現金過不足」として記録します。

 

ケース④:後日、クレジットカードの売上が入金された時

カード会社から口座に振り込まれる際の処理です。

状況: 先日のカード売上10,000円について、手数料300円が引かれ、9,700円が入金された。

ケース②で計上していた「未収入金(カード)」を取り崩します。

手数料は「支払手数料」として経費計上します。入金明細書と必ず照合を行ってください。

 

Ⅲ.  「現金過不足」を出さない・見逃さないための内部統制

 

経理担当者として、仕訳を切るだけでなく、現金のズレを防ぐ体制作り(内部統制)も重要な役割です。

 

① 第三者によるダブルチェック

現金を数える担当者(受付)と、その金額を帳簿につける担当者(経理)は、可能な限り分けます(職務分掌)。

日次締めの際は、必ず2名以上でカウントし、レシート(ジャーナル)に双方のサインを残す運用が望ましいです。

 

② 現金過不足の原因究明と報告

「現金過不足」勘定は、決算までには原因を特定して解消すべき科目です。

  • 釣り銭の渡し間違い
  • 入力ミス(領収書の発行漏れ、二重発行)
  • 個人的な流用(横領)の可能性

もし頻繁に過不足が発生する場合、単なるミスではなく不正の可能性も疑わなければなりません。発生日、担当者、金額を記録し、傾向を分析することが重要です。

 

Ⅳ. 月末の検証:この数字が合えば会計はOK!

日々の窓口処理が正しく行われているかは、月末に以下の計算式で検証できます。

 

【窓口未収金の検証等の公式】

 

この計算がピタリと一致すれば、日々の現金管理も、カード処理も、月末の売上計上もすべて正確だったという証明になります。

 

逆にここが合わない場合は、以下のどこかに誤りがあります。

  1. 日々の現金仕訳の入力ミス
  2. カード払いを現金扱い(またはその逆)にしている
  3. 未収金リスト(レセコン)に架空のデータが残っている

 

Ⅴ. まとめ

口収入の会計処理は、単純な作業のようでいて、患者さんとの会計やり取りの信頼性と正確な決算を支える最も重要な土台です。

 

  • 日々の窓口入金の仕訳では、貸方は「医業未収金」を使う(売上ではない)
  • 現金とシステムが合わない時は「現金過不足」を使う(未収金を調整しない)
  • カード決済は「未収入金」への振替処理を行う

 

この基本ルールを徹底することで、経理業務の品質は劇的に向上します。不明な差額が積み上がって決算期に慌てないよう、日々の照合を大切にしましょう。

出典:厚生労働省「医療法人会計基準」「医療法人会計基準適用上の留意事項」等の公表資料および一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成

 

医療機関においては、多数のスタッフを抱える場合も多く、正確な計算と迅速な対応が求められます。

ご不明な点や、医療機関特有の税務・会計処理について不安がございましたら、医療機関専門の税理士法人である私たちにご相談ください。

 

 

 

 

 

 

筆者:横田 圭吾(よこた けいご)

税理士法人G.C FACTORY
西日本支社 支社長・監査部 部長
公認会計士・税理士

 

経歴:

公認会計士試験合格後、世界Big4のEYメンバーファームであるEY新日本監査法人にて、医療機関、上場企業、金融機関、IPOなどの幅広い会計監査業務や内部統制監査を担当。独立行政法人、医療法人、社会福祉法人、公益法人など様々な設立主体の医療機関の会計監査を経験。2022年8月にG.C FACTORYへ入社後現在に至る。

 

実績・経験:

・医療機関の財務・税務デューデリジェンス業務を責任者として約100件担当。

・クリニック開業や事務長としての運営支援を担当。

・医療機関承継において必要となる、事業計画作成、融資支援、クラウド会計導入支援等、複数の支援を担当。

・医療機関への公認会計士・監査法人監査の対応コンサルや内部統制コンサル等の支援を担当。

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