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医院経営にまつわるコラムを定期的に配信しています。
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前回のコラムでは、日々の「窓口現金」の管理について解説しました。
しかし、医療機関の収益の大部分(約7〜9割)を占めるのは、社会保険診療報酬支払基金(支払基金)や国保連に対する「保険請求収入」です。
この保険請求は、請求から入金までに約2ヶ月のタイムラグがある上、「返戻(へんれい)」「査定(さてい)」「保留(ほりゅう)」といった特有の調整が入るため、会計処理が非常に複雑になりがちです。
本コラムでは、経理担当者がつまずきやすいこれらの処理について、実務上の「正解の仕訳」と管理ポイントを、公認会計士・税理士が徹底解説します。
目次

窓口収入と同様、保険請求においても「発生主義」が絶対のルールです。
正しい計上時期は、レセプト提出日や入金日ではなく、「診療行為が完了した月の月末」です。
状況: 1日の窓口現金収納額が100,000円であった(レセコンの集計と現金の有高が一致)。

医業未収金の「補助科目」は何を使うべき?
「医業未収金」を一本で管理するのは絶対にNGです。入金元が異なるため、消込ができなくなります。
実務上は、最低でも以下の区分で補助科目(内訳)を設定することを強く推奨します。
このように「入金元(財布)」ごとに補助科目を分けておくことで、通帳に振り込まれた金額とスムーズに照合できるようになります。

「患者さんの保険証確認ができていない」などの理由で、レセプト請求をあえて止めることを「請求保留(月遅れ請求)」といいます。
「請求を止めても、売上計上は止めない」のがルールです。
状況: 6月診療分のうち、保険証未確認のため50,000円分を保留(請求なし)とした。

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ここでも補助科目「保留」が活躍します。通常の未収金と混ぜないことで、管理漏れを防ぎます。
ここが実務の重要ポイントです。保留していた分を、翌月以降に実際に請求した際は、「保留」から「正規の未収金」へ振り替える仕訳が必要です。
状況: 先月保留にしていた50,000円について、保険証が確認できたため、7月分のレセプトと一緒に請求した。

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借方を「社保(請求済のもの)」、貸方を「保留(未請求のもの)」にして振替処理を行います。これで「保留」残高がゼロになり、通常の入金サイクルに乗ったことが確認できます。

約2ヶ月後、支払基金等から「振込通知書」や「増減点連絡書」が届きます。
「査定(決定事項)」と「返戻(やり直し)」は、会計上の扱いが全く異なるため、明確に区別する必要があります。
医学的に診療内容が不適当と判断され、点数を減らされることです。
これは「決定した損失」として処理します。
仕訳: 請求額(社保分)に対し、10,000円の査定(減額)があった。

稀なケースですが、審査の結果、請求額よりも増額されることがあります。
仕訳: 請求額(社保分)に対し、1,000円の増額(査定増)があった。
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査定増は収益計上漏れのサインです
査定増(入金額>請求額)となった場合、単に雑収入等で処理して終わらせてはいけません。
これは、「医事課が認識していた請求額」と「経理が認識すべき正しい収益額」にズレが生じていた(=当初の収益計上に漏れがあった)ことを意味します。
経理担当者は、なぜ当初の請求額が少なかったのか、医事課と連携して原因を確認する必要があります。システムの設定ミスや算定ルールの誤解が隠れている場合、慢性的な収益計上漏れ(過少申告)につながるリスクがあります。
記載ミスや確認事項があり、レセプトが医療機関に戻されることです。
修正して再提出すれば入金される可能性があるため、「請求の取消(逆仕訳)」を行います。
仕訳: 請求額(社保分)のうち、20,000円分が返戻となった。
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一旦、売上と対応する補助科目の未収金を取り消し、修正して再請求した月に改めて売上計上を行います。
査定や返戻の処理が終わったら、実際の入金処理を行います。
状況:


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この時点で、帳簿上の「医業未収金(社保・国保)」残高は、査定・返戻処理によりすでに30,000円減額されています。
そのため、入金額6,970,000円を消し込めば、当該請求分の未収金残高はきれいにゼロになります。
最後に、経理担当者が毎月必ず行うべき「残高チェック」の方法をお伝えします。
保険請求は入金サイトが長いため、以下の数式で「あるべき残高(理論値)」を算出し、会計帳簿と照合してください。
【保険未収金の検証公式】

通常、保険入金は2ヶ月後なので、常に「2ヶ月分」の未収金が帳簿に残っているのが正常な状態です。
もし、帳簿の残高がこの理論値よりも明らかに多い場合、以下の可能性が高いです。
保険請求の会計処理は、単に「お金が入ってきたかどうか」を記録するためだけのものではありません。
最も重要な目的は、「現場のレセプト請求業務が適切に行われているか」をチェックすることにあります。
こういった会計上の違和感は、医事課での請求ミスやオペレーションの不備を早期に発見する重要なシグナルとなります。
「経理と医事は別」と捉えず、会計数値を通じて現場の請求精度を高めていく意識を持ちましょう。
出典:厚生労働省「我が国の医療保険について」等の公表資料および一般的な医療会計基準に基づき作成
ご不明な点や、医療機関特有の税務・会計処理について不安がございましたら、医療機関専門の税理士法人である私たちにご相談ください。
筆者:横田 圭吾(よこた けいご)
税理士法人G.C FACTORY
西日本支社 支社長・監査部 部長
公認会計士・税理士
経歴:
公認会計士試験合格後、世界Big4のEYメンバーファームであるEY新日本監査法人にて、医療機関、上場企業、金融機関、IPOなどの幅広い会計監査業務や内部統制監査を担当。独立行政法人、医療法人、社会福祉法人、公益法人など様々な設立主体の医療機関の会計監査を経験。2022年8月にG.C FACTORYへ入社後現在に至る。
実績・経験:
・医療機関の財務・税務デューデリジェンス業務を責任者として約100件担当。
・クリニック開業や事務長としての運営支援を担当。
・医療機関承継において必要となる、事業計画作成、融資支援、クラウド会計導入支援等、複数の支援を担当。
・医療機関への公認会計士・監査法人監査の対応コンサルや内部統制コンサル等の支援を担当。
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